中小企業の経営者の方から、「辞めた元社員から、自分の写真をSNSから削除してほしいと言われたが、どう対応すべきか分からない」といったご相談をよくいただきます。
特に中小企業では、採用時や広報目的でスタッフの写真を使うことが多く、退職後の扱いについてルールを決めていないケースが大半です。SNSやホームページに元社員の情報が残ったままだと、トラブルや信頼失墜につながるリスクもあります。
この記事では、元社員からの削除依頼にどう向き合うべきか、法的な考え方と実務的な対処方法をわかりやすく解説します。
元社員の削除依頼、なぜ問題になる?
知らないうちに「肖像権」や「プライバシー権」の侵害になることも
社員が在籍中に会社のSNSやホームページに登場していた場合、基本的にはその当時の合意があったと考えられます。
しかし、退職後も無断で写真や情報を使い続けていると、肖像権やプライバシー権の侵害とみなされる可能性があります。
たとえば、以下のような事例が報告されています。
- 元社員の写真がホームページに残っていて、本人が削除を依頼
- 元社員のインタビュー記事がSNSに掲載されたまま
- 退職後もスタッフ紹介ページに掲載されている
たとえ過去に同意を得ていたとしても、退職によって「その同意の効力が切れる」と考えるのが一般的です。そのため、削除依頼を受けた場合は放置せず、早めに対応しましょう。
対応が遅れるとどうなる?
「削除してくれない会社」として悪評が広がるリスク
削除依頼に対応しないまま放置していると、以下のようなリスクが発生します。
- 本人がSNSや口コミサイトで苦情を投稿し、炎上する
- 法的な手段をとられる(内容証明・訴訟など)
- 採用ページや広報資料の信頼性が損なわれる
特に採用活動に力を入れている企業の場合、過去の掲載写真が原因で「ブラック企業かも?」と誤解されるリスクもあります。
リスクを避けるためにも、削除依頼が来た時点で誠実に対応することが重要です。
削除依頼が来たときの適切な対応ステップ
どのような流れで対応すべきかを整理
- まずは事実確認:「どのSNS投稿か」「どの写真か」具体的に確認します
- 該当投稿の確認:社内で投稿内容を洗い出します
- 社内責任者と方針確認:削除・修正・モザイク加工など対応方法を検討
- 削除対応:可能な限り速やかに削除や非公開設定を実施
- 本人へ連絡:「削除完了の報告」と今後の方針を伝える
このとき大切なのは、「会社の都合で残したい」ではなく、「本人の意志を尊重する姿勢」です。削除の完了報告をする際も、形式的ではなく丁寧な文章で伝えましょう。
削除を断ることはできるのか?
正当な理由がない限り“拒否”は避けるのが無難
「広報資料として使っていたから」「当時は許可をもらっていたから」といった理由で削除を断ることも理論上は可能ですが、実務上はおすすめできません。
もしも削除しなかった場合、以下のようなデメリットが出てきます。
- 元社員との関係が悪化し、悪評を書かれる
- 企業の評判リスクがSNS上で拡散する
- 弁護士を通じての正式な削除請求につながる
どうしても削除できない理由がある場合(新聞記事など客観性のある記録に基づく内容など)を除き、削除する方向で対応した方がトラブル回避につながります。
今後に向けた“事前対策”のすすめ
削除トラブルを防ぐ社内ルールの作成を
削除依頼をめぐるトラブルを防ぐためには、あらかじめ「掲載同意書」や「削除ルール」などを整備しておくことが有効です。
以下のような対策を導入しましょう。
- 写真・動画を使用する際の同意書の取得(退職時の効力終了を明記)
- 社員紹介ページに「掲載は在籍中のみ」などの注記を加える
- 削除依頼が来た場合のフローを文書化(ガイドラインの作成)
特に「同意の期限」や「退職後の扱い」について記載がないと、解釈の違いからトラブルが発生しがちです。
社内でのルール作成が難しい場合は、外部の専門家(社労士や弁護士、ITサポート会社など)に相談して、ひな形の整備を進めておくと安心です。
まとめ|退職者のSNS削除依頼には丁寧に、今後のルール整備も
元社員からのSNS削除依頼は、「ただ削除するかどうか」だけでなく、「会社の姿勢」が問われる問題です。
対応を誤ると、法的トラブルだけでなく、企業イメージの低下にもつながります。
これを機に、
- 削除依頼には誠実・迅速に対応する
- 事前に同意書やルールを整備する
- 社内外の人が安心できる運用に見直す
といった取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
なお、肖像権やプライバシーに関する判断はケースバイケースです。対応に迷った場合は、法律の専門家(弁護士)に相談することを強くおすすめします。
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